NHKエデュケーショナルのお仕事、紹介します。

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NHKエデュケーショナルを就職先に選んだ理由はなんですか?

テレビ業界に興味を持ったきっかけは、中学生のときに見た『NHKスペシャル驚異の小宇宙人体』という番組です。その頃は特に科学が好きだったわけではないのですが、子どものころから体の中のしくみには興味がありました。NHKスペシャルでは、体の細胞の中にある染色体を46冊の辞書に例えてCGで表現していて、細胞の世界にとても惹きつけられたのを覚えています。「いつか、こんな科学番組を作れたらいいな」と憧れを抱くようになり、大学では生命科学を専攻しました。大学院で修士課程を終えるころ、そのまま研究の現場に残るという選択肢もあったのですが、やはり子どものころからの夢だった科学番組の制作にチャレンジしたいと思ったんです。NHKエデュケーショナルには科学番組専門の部署があり、また、子ども番組を数多く手がけているので、いつか子ども向けの医学番組を作ってみたいという思いもあり、応募しました。

最初に担当した仕事はなんですか?

希望していた科学健康部に配属されて、子ども向けの環境教育番組『モリゾー・キッコロ 森へいこうよ!』という15分番組を担当しました。配属初日に任されたのは、番組内のミニコーナーの企画です。与えられたミッションは「番組のキャラクターであるモリゾーとキッコロの着ぐるみを使って何かおもしろいことを考えてみて」。上司や先輩からいろいろなアドバイスをいただき、最終的にはチャップリンの無声映画をヒントに、字幕とコマドリで構成されたレトロ風な映像で、森遊びを紹介するコーナーをつくりました。完成した日に仲間内で打ち上げをやってもらったことを今でも覚えています。
その後は番組本編を担当しました。経験の無い中で、MCのウド鈴木さんや他の出演者たちとのやりとりを考えたり、撮影の小道具を準備したりとすべてが大変でしたが、この番組を通して、企画、構成、台本・絵コンテ、ロケ、編集などの制作の基礎、そして何よりチームワークの大切さを学んだ気がします。

科学健康部では、その後どんな番組を担当しましたか?

入社3年目のときに『クローズアップ現代』を担当しました。NHKエデュケーショナルでクローズアップ現代を作ることはあまりないのですが、長年健康番組を作ってきた当時の上司(プロデューサー)が、医学界で話題になった糖尿病の最新治療の企画を出し、そこにディレクターとして参加することになったのです。
この番組を作ったときに一番印象に残っているのが、患者さんへの取材です。最新治療を紹介する際、まずは医者や研究者を取材します。でも、もっとも大切になるのは、治療の当時者である患者さんとその家族。当然ながら、「病」という人生でもっともつらい時期に、カメラに撮られるのは患者さんにとって大きな負担になります。それでも番組に協力してもらうためにはどうしたらいいか。何度も通い、病気に向きあう苦労や悩み、新治療を受けるにあたっての迷いや決意を聞き、少しずつ心を開いてもらいました。患者さんは、同じ病気で苦しむ方の役に立ちたいという思いをもって協力してくださるので、期待を裏切ってはいけない!と背中を押されながら制作を進めたのを覚えています。

宝物として大切に保存している「過去の取材ノート」

担当した中で、特に印象に残っている番組はなんですか?

2015年に放送した『NHKスペシャル腸内フローラ~解明!驚異の細菌パワー~』という番組です。この番組は『クローズアップ現代』の取材をしていたときの雑談をきっかけにできた企画です。糖尿病の医師と話をする中で、最近おもしろい研究結果が出たと聞きました。それは、糖尿病の患者と健康な人とでは腸内細菌がガラッと違う、というもの。話を聞いた当初は「ふ~ん」というくらいにしか思っていなかったのですが、のちにアメリカ政府が腸内細菌の研究に巨額の予算をつけたことを知り、論文を読みあさるうちにどんどんのめり込んでいきました。日本ではまだほとんど報告されていませんでしたが、腸内細菌が糖尿病だけでなく、肥満やがん、アレルギー、さらにはうつや認知症などの病気とも関連があることがわかってきたんです。研究の大きな波が来ていることに震えたのを今でも覚えています。NHKスペシャルは毎年数百もの企画が集まる狭き門ですが、上司や先輩方にアドバイスをもらいながら作った企画が通り、制作できることになりました。
実際の制作の際には、毎週のように出る新しい論文を入手しては読み込み、分からないところは直接研究者と連絡を取る、ということを繰り返しました。微生物学、消化器科、循環器科、腫瘍科、脳神経科とさまざまな分野を横断して、国内だけでなく世界各地の研究者に取材していたので、当時は腸内細菌について研究者と同じ、もしくはそれ以上に詳しかったかもしれません(笑)。
番組放送後の反響は予想以上で、週刊誌や民放の番組にも取り上げられました。さらに出版社からも声がかかり、取材の成果をまとめた『腸内フローラ10の真実』という本にもなりました。その後、夢だった『NHKスペシャルシリーズ人体』の大型プロジェクトにも参加し、大好きな番組を作ることができました。さらに「NHKスペシャル人体」を制作しているときに、入社当時からやりたいと思っていた子ども向けの医学番組の企画を考えるようになりました。それでできたのが『バビブベボディ』という番組です。
“どうしてうんちは出るの?”“赤ちゃんはどこからくるの?”お母さんやお父さんたちが知っているようで知らない子どもの体への興味に全力で答えてみよう、という趣旨で作りました。子ども向けの医学番組というのはNHKでも初めての試みでしたし、海外にもありません。でも、各国の教育テレビ関係者にリサーチしてみると、とても需要があることが分かりました。そこで国際共同制作のオファーをかけ、カナダ、イギリスの制作会社と一緒につくることになったのです。できあがった番組は国内外で好評で、先日アジア・テレビ賞を受賞することができました。

情報収集して読んだ資料や論文
『腸内フローラ~解明!驚異の細菌パワー~』で、「第46回科学放送高柳賞優秀賞」と「科学ジャーナリスト賞2015」を受賞

現在、特集文化部に所属していますが、異動したきっかけはなんですか?

憧れの「人体シリーズ」と「子ども向けの医学番組」という、入社当時の目標が実現できた一方で、8年以上同じ部署で過ごしたので、これまでとは違う経験も積みたいという思いから、さまざまな番組を制作している特集文化部へ異動希望を出しました。

『バビブベボディ』に登場する、臓器が楽器になったかわいいキャラクターたち
2017年に放送された『NHKスペシャルシリーズ人体神秘の巨大ネットワーク』の撮影に協力してくれた橋本マナミさんとトークショーを開催
同じく『NHKスペシャルシリーズ人体神秘の巨大ネットワーク』で取材したアメリカに住むジュリアン・フェルトくんと撮影クルー

特集文化部での仕事を教えてください。

現在は『日曜美術館』という番組を担当しているのですが、ずっと科学の勉強をしてきたので、美術の勉強は子どものとき以来。取材をしていても分からない用語ばかり出てきて、戸惑いの連続でした。
アートは感性のものだ、という人もいますが、作品を理解する上で時代背景や歴史、宗教、同時代の作家、画材や使っている技術を知らなくてはなりません。そのために日ごろから意識して、旅先で美術館に立ち寄ったり、美術の雑誌を読んだり、より多くのアートに触れるように心がけています。作品をどう伝えるか、とても難しい作業ですが、作品と向き合ってあれこれ考える時間が好きになりました。同じ部署に同期のディレクターがいるのですが、シーンの撮り方やインタビューの進め方などいつも勉強になるので、さまざまな角度から着想を得ています。

『日曜美術館』で山形に住む陶芸家ブルーノ・ピープルさんを取材。司会の小野正嗣さんと撮影クルーと一緒に

働き方改革で意識していることはありますか?

ディレクターの仕事の多くは、場所を問いません。ロケや編集では、会社の設備を使うのですが、企画のアイデア出しや取材はどこにいてもできます。去年から在宅勤務が可能になったおかげで、時間をとても有効に使えるようになりました。例えば、朝洗濯をして、午前中は家でデスクワーク、お昼はジムに行って、帰ったら昼ご飯をつくり、洗濯を取り込んで、午後は電話取材、というような生活もできるようになりました。
また、NHKエデュケーショナルは女性が多いので、相談できる同性の先輩が身近にたくさんいるのも魅力です。女性ならではの相談にも乗ってもらえるし、ロールモデルが身近にいるのでキャリアプランがとても考えやすいです。

大学生に向けてメッセージを!

時代が変わり、技術が次々と進化し、これまでの常識や普通が当たり前でなくなりつつあります。テレビも大きな変革のときに来ているのは確かです。これまで以上に、時代の変化を繊細にくみ取れる人が必要になるはず。私は幼少期をアメリカで過ごしたのですが、そのせいか、日本社会に疑問や生きづらさを感じることがよくありました。社会が「こういうふうになったらいいのにな」と思い続けてきたことが大きなモチベーションの一つでした。テレビは、そんな一人ひとりの制作者の思いを多くの人に伝えることができる強力なツールです。時代の動きを敏感に感じとりながら「どういう未来にしたいか」、そういう大きなゴールを目標にして突き進める人と一緒に仕事をしたいです。

古川 ふるかわ ディレクター
2010年入社
特集文化部

あだ名:ちーちゃん
学生時代の部活動:ダンス部
ストレス解消法:配信ドラマの一気見
座右の銘:ケセラセラ