これまでのお仕事の中で最も大変だったと思うものは?
デスクとして番組の立ち上げに参加した『あさイチ』です。90分をこえる生放送。チームとしての目標は「同時間帯に横並びで放送している情報番組の中で一番話題になるコンテンツにすること」でした。たくさんの方に観てもらい、高い視聴率を目指すことも大きな目標でした。オーダーを受けたときは正直、驚きましたが、この目標を達成するために僕自身がとった方法は、それまで “Eテレ”で実践してきた演出論やブッキング方法を放送波の異なる“総合テレビ”『あさイチ』の中にどんどん導入することでした。担当したのはエンターテインメント色の強い金曜班。ここに、こども番組の人気司会者や大学教授、有名な作曲家や落語家などを招き、新機軸の情報コーナーを作ったり、メインの『プレミアムトーク』では、これまでEテレの番組でご一緒した数多くのエージェントにも協力してもらったりして、民放の人気番組に負けない“旬の人気タレント”をチーム総がかりで切れ目なくブッキングし続けました。ディレクターたちは取材を掘り下げ、人気タレントが他局では見せたことのない“新たな表情”を次々とテレビに活写してくれました。この試みは視聴者にとても目新しく映ったようで反響も大きく、視聴率は安定的に2桁の数字を出し、同時間帯の横並び1位という結果を得ることもできました。Eテレを中心に、さまざまなジャンルの新番組の開発や、ものすごい本数の番組制作をこなした経験が支えとなったと感じます。
では、印象に残っている出来事は?
歌舞伎俳優の五代目・中村富十郎さんとの出会いです。テレビ制作者としての意識が大きく変わるきっかけとなりました。富十郎さんに初めてお会いしたのは2004年。夏期特番での小さなインタビュー撮影がきっかけでした。人間国宝でありながら、若い僕に対しても常に敬語で、笑い話も交えながら、長時間にわたりとても真摯に話してくださいました。一つ一つの丁寧な立ち居振る舞いを目の当たりにし、こんなに魅力的な方には今後二度とお会いすることはないかもしれないと胸を打たれました。同時に、「絶対にこの方の番組を作りたい!」と。その後、企画から3年を経てETV特集での放送が実現。『富十郎 新作に挑む ~人間国宝・78歳の素顔~』と『弁慶の復活 ~中村富十郎父子 勧進帳に挑む~』という、2本のドキュメンタリーを制作することができました。
そのドキュメンタリーを通じて視聴者に伝えたかったことは?
当時は年金生活者の貧困が課題として浮かび上がってきた時期でした。長く生きるほど、“生きづらい”世の中になってしまうのかという不安が社会にも、そして自分の中にもありました。そんな中での富十郎さんとの出会い。当時77歳だった富十郎さんは、年齢を感じさせない“瞳に満ちあふれる好奇心”と、長い年月を重ねたからこそ醸し出される“確かな芸と美しいたたずまい”を持っていました。その存在そのものが「年齢を重ねることは、とても素晴らしいこと」だと、強く語りかけてくれると確信しました。そこで、“こんな素敵な77歳がいる”ということを、一人でも多くの方に伝えたいという思いで制作に取り組みました。
富十郎さんは、「慢心することなく常に挑戦し学び続ける人には、いくつになっても伸び代があること」、「偉くなったときほど“謙虚”な姿勢を心がけ、自らが経験したことは惜しむことなく若い人に伝えていくことの大切さ」を教えてくださいました。その姿が僕の仕事への向き合い方、人生観に大きな影響を及ぼしています。
現在の担当番組を教えてください。どのように取り組んでいますか?
小学生向けのこども番組『シャキーン!』(Eテレ 月曜~金曜日 午前 7時~7時15分放送)のプロデューサーを担当しています。『シャキーン!』は今年の4月で放送10年目。節目の年のスローガンは「たくさんの人とつながっていこう!」。全国各地に出向いて、こどもたちが番組に参加してくれるような新コーナーを毎回放送したいと思っています。番組MCのめいちゃん、モモエも全国のこどもたちに会いに行くような特番やイベント企画をどんどん展開したいと考えています。めいちゃん、モモエが日本中を元気に、彼女たちも日本中のこどもたちからたくさんの元気をもらう!制作者も視聴者も番組づくりに参加しながら、節目の年にたくさんの方々と大きなムーブメントを巻き起こせたらと思います。僕が番組制作をする上で常に目指しているのは“今まで見たことのないような新しいコンテンツを作る”ことです。すると、それが核となって、一緒にやりたい、とたくさんの方々が集まってくれます。『あさイチ』のときも、ドキュメンタリーもそうでした。仲間がいたからこそ達成できました。我々の大切なクライアントであるこどもたちの声に真摯に耳を傾け、そして時には学ばせてもらいながら『シャキーン!』という番組も、僕自身も、たくさん成長していけるような一年にしていきたいと思っています。
大学生に向けてメッセージをお願いします。
誰かが立ち止まっていると周りの人間が「おーどうした!どうした!」と総がかりでフォローしてくれるような温かい空気があります。それが僕自身、20年経ってもこの会社で働き続けていられる大きな理由の一つ。僕も、後輩から相談を受けた際には、必ず対応できるようにいつも心がけています。だから、まずは安心して来てほしいですね。そして、一緒に大きな山に挑む仲間になりましょう!